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大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)3779号 判決 1957年3月01日

原告 大繊実業株式会社

被告 合名会社伊藤棉行 外四名

主文

被告等は原告に対し連帯して金一、四三八、二四〇円を即時に、金二二四、七二五円を昭和三二年三月一三日限り、金二二四、七二五円を昭和三二年九月一三日限り、金二二四、七二五円を昭和三三年三月一三日限り、金四、三五九、六六五円に対する昭和三一年一二月二九日から支払ずみまで年六分の割合の金員を債務者被告会社に対する大阪地方裁判所昭和二八年(コ)第一四号和議事件の和議の履行が完了したとき支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分しその一を原告の、その余を被告等の連帯負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告は

「被告等は各自原告に対し金四、三五九、六六五円とこれに対する昭和三一年一二月二四日付請求の趣旨訂正の申立並準備書面送達の翌日から支払ずみまで年六分の割合の金員を支払え。訴訟費用は被告等の連帯負担とする」という判決と仮執行の宣言をもとめ請求原因として次のようにのべた。

「被告会社は昭和二八年六月一七日原告に宛て金額四、四九四、五〇〇円、満期昭和二八年九月一〇日、支払地振出地ともに大阪市、支払場所株式会社住友銀行備後町支店なる約束手形一通を振出交付し原告は所持人として満期に右手形を支払場所に呈示して支払をもとめたが拒絶された。よつて原告は被告会社に対し右手形金とこれに対する満期以降支払ずみまで年六分の割合の利息の請求権を有するものである。

ところが被告会社は他にも多額の負債があり大阪地方裁判所に対し和議開始の申立をなし同裁判所昭和二八年(コ)第一四号事件として係属し昭和二九年二月二六日左記のような和議条件のもとに和議認可決定をうけ同年三月一二日右決定は確定した。

(一)  和議認可決定確定の日の翌日から六ケ月以内に債務総額の一割を弁済し、爾後六ケ月以内に債務総額の一割を弁済し、爾後債務総額の五割に満つる迄六ケ月目毎に毎回その五分宛を弁済すること、但し業績により弁済期日の繰上げは監理委員の同意を以つてなすことができる

(二)  前項により弁済した残債務についてはその完済後第六項の監理委員の同意を以つてその処分又は弁済方法を決定のこと

(三)  利息金債権の切捨て及び将来の利息の免除を受けること

(四)  株式会社大和銀行、株式会社住友銀行、株式会社三和銀行、株式会社泉州銀行、株式会社協和銀行、株式会社東海銀行及び日本開発銀行に対して負担する債務は右各銀行より新に受ける借入資金を以つて前三項の規定に依らずして弁済することができるものとして、右旧債務に対する担保物件はこれを右新規借入金債務の担保に充当し得るものとす

(五)  前項の各銀行その他の金融機関より将来融資を受けるときは各その約定に従い一般債権に優先弁済するものとすること

(六)  債務の完済に至るまで会社の財産並に業務全般について総債権額の過半数に該る債権を有する者によつて選任せられた監理委員の整理を受けること

然るに被告会社は和議条件に対しわずかに認可決定確定直後内金一三四、八三五円を支払つたのみで昭和二九年九月一三日支払うべき残金三一四、六一五円及びその後に支払うべき分割金を支払わず和議の履行を怠つたので、原告は昭和三〇年一一月一五日到達の書面をもつて被告会社に対し和議の譲歩の取消の意思表示をしたから被告会社は原告に対して負担する前記債務全額につき支払義務がある。

よつて被告会社に対し前記手形金から金一三四、八三五円を控除した残額四、三五九、六六五円とこれに対する昭和三一年一二月二四日付請求の趣旨訂正の申立並準備書面送達の翌日から支払ずみまで年六分の割合の利息の支払をもとめる。

又被告民雄、三郎、辰子、ゆきは被告会社の社員であるが、被告会社は会社財産をもつて会社の債務を完済することができないから右各被告は連帯してその弁済の責に任ずべきである。

よつて右各被告に対し被告会社と同額の金員の支払をもとめる。」

被告等は各口頭弁論期日に出頭しなかつたがその陳述したとみなすべき答弁書によると、被告等の答弁は、請求棄却の判決をもとめ、「被告会社が原告に対しその主張のような手形を振出交付し原告が所持人として右手形を満期に支払場所に呈示して支払をもとめたが拒絶せられたことは認めるが、その余の原告主張事実は否認する」というにある。

立証として原告は甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二を提出し証人田中賢一の尋問をもとめた。

理由

一、先づ被告会社に対する請求について判断する。

被告会社が原告に対しその主張のような手形を振出交付したこと、原告が所持人として満期に右手形を支払場所に呈示して支払をもとめたが拒絶されたことは当事者間に争がない。

証人田中賢一の証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一、二と同証言を綜合すると被告会社は大阪地方裁判所に和議開始の申立をなし同裁判所昭和二八年(コ)第一四号事件として係属し昭和二九年二月二六日原告主張のような和議条件のもとに和議認可決定がなされ同年三月一二日右決定は確定したこと、右和議条件によれば被告会社は原告に対し本件手形金四、四九四、五〇〇円につき

(一)  昭和二九年九月一三日限り 金四四九、四五〇円

(二)  昭和三〇年三月一三日限り 金四四九、四五〇円

(三)  昭和三〇年九月一三日限り 金二二四、七二五円

(四)  昭和三一年三月一三日限り 金二二四、七二五円

(五)  昭和三一年九月一三日限り 金二二四、七二五円

(六)  昭和三二年三月一三日限り 金二二四、七二五円

(七)  昭和三二年九月一三日限り 金二二四、七二五円

(八)  昭和三三年三月一三日限り 金二二四、七二五円

を支払うべく残額二、二四七、二五〇円については右(一)乃至(八)の分割金の完済後監理委員の同意をもつてその免除を得るか或は減額を得るか、もしこれを支払うべきものとすれば如何なる方法をもつて支払うべきかが決定されるべく、又前記手形金の利息は全部免除を得たものであること、被告会社は前記(一)の分割金のうち一三四、八三五円を支払つたのみで残額はこれを支払わないことを認めることができる。

原告は被告会社が右のように和議の履行を怠つたことを理由として被告会社に対し昭和三〇年一一月一五日到達の書面をもつて和議の譲歩の取消の意思表示をしたから前記譲歩の効果は消滅し、被告会社は原告に対し前記手形金残額とこれに対する昭和三一年一二月二四日付請求の趣旨訂正の申立並準備書面送達の翌日から支払ずみまで年六分の割合の利息の支払義務があるからその即時の履行をもとむる旨主張するからこの点について考えて見る。

証人田中賢一の証言により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、二と同証言を綜合すれば、被告会社がその主張の日その主張のような意思表示を被告会社に対してなしたこと、従つて前記和議の譲歩が同日有効に取消されたことを認めることができる。

しかしながら前記和議条件の内容とするところは前記(一)乃至(八)の金員については期限の猶予をあたえたものであり、残額二、二四七、二五〇円については一応(一)乃至(八)の金員の完済まで期限の猶予をあたえこれを免除するか減額するか或は支払うべきものとしてもその方法をどのようにするかについては右完済後に決定を留保したものであり、利息債務についてはこれを免除したものであること前段認定のとおりであるところ、和議の譲歩が取消された場合和議によつて免除した額(本件の場合は利息債務)については和議法六二条破産法三三一条第二項により原告は和議の履行完了の後にあらざればその権利を行うことができないこと明らかであり又右各法条の趣旨から考えて和議条件において期限の猶予を与えた場合も譲歩の取消があつた時即時に履行を請求することはできず、ただ和議の履行の完了後に猶予によつて失つた中間利息を附加して請求できるにすぎないと解するのが相当であるから、本件においても和議条件によれば未だ履行期の到来しない前記(六)乃至(八)の分割金及び残額二、二四七、二五〇円については即時の請求をすることができないと考える。

従つて原告の被告会社に対する本件請求のうち和議条件によつてもすでに履行期の到来した前記(一)の残額三一四、六一五円及び(二)乃至(五)の分割金の合計一、四三八、二四〇円についてのみ原告の即時の請求は正当であるがその余の部分についての即時の請求は失当である。

ところで原告の本訴請求は即時の請求のみでなく第二次的には将来の給付の請求をも包含するものと解するのが相当であると考えられるので前記(六)乃至(八)の分割金及び残額二、二四七、二五〇円及び利息に関する将来の給付の請求について考えて見る。

被告会社が和議条件の履行を怠つたこと前記認定のとおりであるから将来和議条件に定めた履行期が到来しても被告会社が即時にその義務を履行することは到底期待できないこと明らかであり原告が予めその請求をして判決を得ておく必要があると認められる。

従つて右(六)乃至(八)の分割につき和議条件に定められた履行期にその支払をもとめる原告の請求は正当である。又原告の利息の請求については原告は和議の履行完了の後でなければその権利を行うことができないこと前段に説明したとおりであるから本件手形金残四、三五九、六六五円に対する昭和三一年一二月二四日付請求の趣旨訂正の申立並準備書面送達の翌日であること記録上明らかな昭和三一年一二月二九日から支払ずみまで年六分の割合の利息を和議の履行が完了したとき支払うべきことをもとめる原告の請求も正当である。

しかしながら手形金残額二、二四七、二五〇円については前記和議条件によれば前記(一)乃至(八)の分割金が完済された後これが免除されるか減額されるか否かが監理委員の同意を得て決定されることになつており、従つて何程の金額が和議条件の履行として支払われることとなるかは現在において明確でないからこれについては将来の給付の請求をすることはできないものとなすべく、この部分に関する原告の将来の請求は失当である。

二、次に被告民雄、三郎、辰子、ゆきに対する請求について判断する。

同被告等が被告会社の社員であることは真正なる公文書と推定すべき甲第三号証によりこれを認めることができ、被告会社が原告に対し原告主張のような手形を振出交付し右手形が満期に支払のため呈示されたが拒絶されたことは同被告等の認めるところであり、被告会社が会社財産をもつて会社の債務を完済することができないことは弁論の全趣旨に照し明らかであるから社員たる同被告等は連帯して被告会社が原告に対して負担する右手形金債務の弁済の責に任ずべきこと明らかである。

ところで和議法五七条破産法三二七条により法人の債務につき責任を負う社員は和議債権者に対し和議の定むる限度においてその責任を負うものであるから、前記一において認定したように被告会社につき和議認可決定が確定した以上同被告等は和議条件の限度において責任を負うことになつたというべきである。

而して原告が被告会社の和議条件の不履行を理由として和議の譲歩の取消の意思表示をしたことは前記一において認定したとおりであるから、右譲歩の取消が被告会社の社員たる被告民雄、三郎、辰子、ゆきの責任に如何なる影響をあたえるかについて考えて見るのに、前記各法条の趣旨は社員の責任は保証人のように特定の債務についてではなく全債務についての実質上は共同事業者としての責任なので従来の責務についての社員の責任をそのままにしたのでは法人に対する和議の意味もなくなつてしまうからであると解すべく、法人に対する和議の譲歩の取消があつた場合についても前記各法条の趣旨から考えて法人の社員に及ぼす効果は法人に対する効果と同様であると解するのが相当であろう。

そうだとすると原告の被告会社に対する請求についての判断においてのべたと同様の理由により原告の被告民雄、三郎、辰子、ゆきに対する請求のうち和議条件において既に履行期の到来した金一、四三八、二四〇円に対する即時の請求と前記(六)乃至(八)の分割金及び利息に対する将来の給付の請求は正当として認容すべくその余の請求は失当として棄却すべきである。

三、よつて民事訴訟法八九条九二条九三条一九六条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 山田鷹夫)

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